苦(ペイン)の側のスリルではまず恐怖である。
(ある人はスリルといえばこの恐怖の激情だけのように考えているかも知れないが、字典も明示している通り、スリルはむろん恐怖に限るものではない)人ごろし、血みどろ、一寸だめし五分だめし、逆磔刑、鋸引き、その他殺人と刑罰との肉体的スリル、人体解剖、毒殺、疾病、手術などの医学的スリル、世界中を敵として逃げ廻る犯罪者の身の置きどころもないたえ難い恐怖、追われるもののスリル、断崖、高層建築などの墜落恐怖、猛獣、蛮人などから感じる冒険スリル、一方にはまたお化け、幽霊、生霊、神罰、仏罰、心霊現象などの不可知なるものから生ずるスリルなどがこれである。
この種のスリルは主として怪奇小説、犯罪小説、冒険小説、探偵小説、怪談などの取り扱うところであるが、探偵小説にもそれがはなはだ多量に取り入れられているのはいうまでもない。