読物ではその適例を見出すのがむつかしいけれど、芝居では、二枚目を責めさいなむ敵役、嫁いびりの悪婆などの芸が頂点に達すると、娘さんをくやし泣きに泣かしめ、手荒い見物をして半畳を舞台目がけて投げつけさせるほどのスリルをあたえることができる。
以上例示した激情は、知識の程度を問わず、情操の訓練をほとんど要しないで、文字の読めるほどの人々は例外なく理解できるところの、いわば平俗低調なるスリルである。
いかに原始的な激情であっても、扱い方によっては必ずしも卑俗とはいえないのだけれど、たとえば笑いにおける「クスグリ」のごとく、「お涙頂戴」や「こわがらせ」やを意識して、なんら深い洞察もなく、これらのスリルを生々しく描き出した作品が、軽蔑を含めて、スリラアと呼ばれるのは是非ないところである。