以上例示した激情は、知識の程度を問わず、情操の訓練をほとんど要しないで、文字の読めるほどの人々は例外なく理解できるところの、いわば平俗低調なるスリルである。
いかに原始的な激情であっても、扱い方によっては必ずしも卑俗とはいえないのだけれど、たとえば笑いにおける「クスグリ」のごとく、「お涙頂戴」や「こわがらせ」やを意識して、なんら深い洞察もなく、これらのスリルを生々しく描き出した作品が、軽蔑を含めて、スリラアと呼ばれるのは是非ないところである。
読者諸君は低調な読物ほど「ゾクゾク」「ブルブル」「ハラハラ」「ヒヤヒヤ」「ドキドキ」「ドキン」「ゾーッと」「ギョッと」「アッと」「ハッと」「キャッ」「ゲッ」などの言葉に満ちているのを思い出すことができるであろう。