近代英米長篇探偵小説の八割までが、なんらかの形で一人二役のトリックを取り入れているのは、おかしいほどであるが、これは作者たちに智恵がないことを証するよりも、一人二役型の恐怖がいかに深い魅力を持っているかを証するものと見るべきである。
この恐怖はまた二重人格離魂病の伝説などにも関連しているのだが、この型を代表する作品はスティヴンスンの「ジーキル博士とハイド」であって、これをジーキル・ハイド型のスリルと呼ぶことができる。
また一人二役の裏は双生児トリックであるが、その恐怖を代表する作品はポーの「ウィリアム・ウィルスン」エーホルスの「プーラーグの大学」などであって、これをかりにウィリアム・ウィルスン型のスリルと名づけてもよいと思う。