殺人者ラスコーリニコフが、人通りのはげしい道路で、突然ひざまずいて大地に接吻するという、恐怖ではないが、しかし非常にはげしい一種のスリル、「永遠の良人」の人物が、自分を殺すかも知れない男と、同じ部屋で眠る場面のいく通りものスリル、「カラマゾフ」のドミトリが、いいなずけの女から侮蔑的な態度で三千ルーブルを受け取り、それをほかの女と使い果たしてしまったかのごとく見せかけながら、実は半額の千五百ルーブルを着物の襟にぬいつけてかくしていた、そのことがどんな人殺しよりも窃盗よりも恥辱だという気持、しかしついにそれをうちあける場面の描写、あれには実に深い心理的恐怖が含まれている。
私はあれを一つのスリルとして感じる。
別の作者をいえば、アンドレエフの出世作といわれる短篇に好例がある。