私は事件の記述に先だって、この事件の主人公である探偵作家大江春泥の人となりについて、作風について、又彼の一種異様な生活について、詳しく説明して置くのが便利であるとは思うのだけれど、実は私は、この事件が起るまでは、書いたものでは彼を知ってもいたし、雑誌の上で議論さえしたことがあるのだけれど、個人的の交際もなく、彼の生活もよくは知らなかった。
それをやや詳しく知ったのは、事件が起ってから、私の友達の本田という男を通じてであったから、春泥のことは、私が本田に聞合せ調べ廻った事実を書く時に記すこととして、出来事の順序に従って、私がこの変な事件に捲き込まれるに至った、最初のきっかけから筆を起して行くのが、最も自然である様に思う。
それは昨年の秋、十月なかばのことであった。