当時経済界の大変動から、彼女の父は弥縫の出来ない多額の借財を残し、商売をたたんで、殆ど夜逃げ同然に、彦根在の一寸した知る辺をたよって、身を隠さねばならぬ羽目となった。
この予期せぬ境遇の変化の為に、静子は今少しという所で女学校を中途退学しなければならなかったけれど、一方では、突然の転宅によって、気味の悪い平田一郎の執念から逃れることが出来たので、彼女はホッと胸なでおろす気持だった。
彼女の父親はそれが元で、病の床につき、間もなく死んで行ったが、それから、たった二人になった母親と静子の上に、暫くの間みじめな生活が続いた。