根岸へ移り住んだ頃から、春泥は漸くはやりっ子となり、雑誌記者などが随分おしかけたものであるが、彼の人嫌いはその当時からで、いつも表戸をしめて、奥さんなどは裏口から出入りしているといった風であった。
折角訪ねても逢ってはくれず、居留守を使って置いて、あとから手紙で、「私は人嫌いだから、用件は手紙で申送ってくれ」という詫状が来たりするので、大抵の記者はへこたれてしまい、春泥に会って話をしたものは、ほんの数える程しかなかった。
小説家の奇癖には慣れっこになっている雑誌記者も、春泥の人嫌いを持余していた。