妙なえたいの知れぬ恐怖がなくなって、その代りに現実的な不快ばかりが残った。
(だが、そんな風に相手を軽蔑してしまったのは、飛んでもない間違いであったことが、後になって分った)静子は無性に怖がって、主人の身には換えられぬから、彼女の秘密を犠牲にしても、警察の手を煩わす方がよくはないかと云い出したが、私は相手を軽蔑し始めていたものだから、彼女を制して、まさか「屋根裏の遊戯」にある天井から毒薬をたらす様な、馬鹿馬鹿しい真似が出来る筈はないし、天井裏へ忍込んだからと云って、人が殺せるものではない。
こんな怖がらせは、如何にも大江春泥らしい稚気で、こうしてさも何か犯罪を企らんでいる様に見せかけるのが、彼の手ではないか。