それは或は、態と手紙では油断をさせて置いて、意表に出でる、一種の策略であったかも知れないのだが、私はふと、もっと別の理由があったのではないかと疑った。
静子が時計の音を聞いて、屋根裏に春泥が潜んでいると信じ、涙を流して六郎氏の命乞いをしたということを聞いた時、已に私はそれを虞れたのだが、春泥はこの静子の純情を知るに及んで、一層激しい嫉妬を感じ、同時に身の危険をも悟ったに相違ない。
そして、「よし、それ程お前の愛している亭主なら、長く待たさないで、早速やっつけて上げることにしよう」という気持になったことであろう。