その汽船発着所は、隅田川の水の上に浮んでいる、四角な船の様なもので、待合客のベンチも、客用の便所も、皆そのブカブカと動く船の上に設けられている。
私はその便所へも入ったことがあって知っているのだが、便所と云っても婦人用の一つきりの箱みたいなもので、木の床が長方形に切抜いてあって、その下をすぐ、一尺ばかりの所を、大川の水がドブリドブリと流れている。
丁度汽車か船の便所と同じで、不潔物が溜る様なことはなく、綺麗と云えば綺麗だが、その長方形に区切られた穴から、じっと下を見ていると、底の知れない青黒い水が澱んでいて、時々ごもくなどが、検微鏡の中の微生物の様に、穴の端から現われて、ゆるゆると他の端へ消えて行く。