船を待合せていた客の中にも、いなせな肴屋さんなどがいて、若い者と共力して死体引上げにかかったが、便所の中からでは迚も上げられないので、外側から竿で死骸を広い水の上までつき出した所が、妙なことには、死骸は猿股一つ切りで、丸裸体なのだ。
四十前後の立派な人品だし、まさかこの陽気に隅田川で泳いでいたとも受取れぬので、変だと思って尚よく見ると、どうやら背中に刃物の突傷があるらしく、水死人にしては水も含んでいない様な鹽梅なのだ。
ただの水死人ではなくて殺人事件だと分ると、騒ぎは一層大きくなったが、さて、水から引上げる段になって、又一つ奇妙なことが発見された。