彼もこの異様な事件には余程驚いた様子で、又深い興味をも感じたらしかったが、兎も角全力を尽して大江春泥の行衛を探させること、小山田家には特に刑事を張込ませ、巡査の巡回の回数を増して、充分静子を保護するという約束をして呉れた。
大江春泥の人相については、世に流布している写真は余り似ていないという私の注意から、博文館の本田を呼んで、詳しく彼の知っている容貌を聞取ったのであった。
それから約一ヶ月の間、警察は全力をあげて大江春泥を捜索していたし、私も本田に頼んだり、其外の新聞記者雑誌記者など、逢う人ごとに、春泥の行衛について、何か手掛りになる様な事実を聞出そうと骨折っていたにも拘らず、春泥は如何なる魔法を心得ていたのであるか、杳として其行衛が分らないのであった。