近所で聞合せても両隣とも工場なので、観察好きのお神さんという様なものもなく、一向要領を得ないのであった。
博文館の本田は本田で、彼は段々様子が分って来ると、根がこうしたことの好きな男だものだから、非常に乗気になってしまって、浅草公園で一度春泥に合ったのを元にして、原稿取りの仕事の暇々には、熱心に探偵の真似事を始めた。
彼は先ず、嘗つて春泥が広告ビラを配っていたことから、浅草附近の広告屋を、二三軒歩き廻って、春泥らしい男を傭った店はないかと調べて見たが、困ったことには、それらの広告屋では忙しい時には、浅草公園あたりの浮浪人を、臨時に傭って、衣裳を着せて一日丈け使う様なこともあるので、人相を聞いても思出せぬ所を見ると、あなたの捜していらっしゃるのも、きっとその浮浪人の一人だったのでしょう。