彼は先ず、嘗つて春泥が広告ビラを配っていたことから、浅草附近の広告屋を、二三軒歩き廻って、春泥らしい男を傭った店はないかと調べて見たが、困ったことには、それらの広告屋では忙しい時には、浅草公園あたりの浮浪人を、臨時に傭って、衣裳を着せて一日丈け使う様なこともあるので、人相を聞いても思出せぬ所を見ると、あなたの捜していらっしゃるのも、きっとその浮浪人の一人だったのでしょう。
ということであった。
そこで、本田は今度は、深夜の浅草公園をさまよって、暗い木蔭のベンチなどを一つ一つ覗き廻って見たり、浮浪人が泊り相な本所あたりの木賃宿へ、態々泊り込んで、そこの宿泊人達と懇意を結んで、若しや春泥らしい男を見かけなかったかと尋ね廻って見たり、それはそれは苦労をしたのであるが、いつまでたっても、少しの手掛りさえ掴むことは出来なかった。