六郎氏側の親戚の人達は、私の屋根裏調査以来の心尽しを知ると、無気に私を排斥することは出来なかったし、糸崎検事などは、そういうことになれば丁度幸だから、ちょいちょい小山田家を見舞って、未亡人の身辺に気をつけて上げて下さいと、口添えをした程であったから、私は公然と彼女の家に出入することが出来たのである。
静子は初対面の時から、私の小説の愛読者として、私に少なからぬ好意を持っていたことは、先に記した通りであるが、その上に二人の間に、こういう複雑な関係が生じて来たのだから、彼女が私を二なきものに頼って来たのは、誠に当然のことであった。
そうしてしょっちゅう逢っていると、殊に彼女が未亡人という境遇になって見ると、今迄は何かしら遠い所にあるものの様に思われていた、彼女のあの青白い情熱や、なよなよと消えてしまい相な、それでいて不思議な弾力を持つ肉体の魅力が、俄かに現実的な色彩を帯びて、私に迫って来るのであった。