右に述べた日記帳、春泥の短篇集、新青年等の証拠品が、六郎氏の書斎の錠前つき本棚にあったこと、その錠前の鍵は一つしかなく、六郎氏が行住坐臥所持していたことは、それらの品が六郎氏の陰険な悪戯を証拠立てているというばかりではなく、一歩譲って、春泥が六郎氏に疑をかける為に、その品々を偽造し六郎氏の本棚へ入れて置いたと考えることさえ、全然不可能なのです。
第一日記帳の偽造なぞ出来るものではありませんし、その本棚は六郎氏でなければ開けることも閉めることも出来なかったではありませんか。
かく検して来ますと、我々が今迄犯人と信じ切っていた大江春泥こと平田一郎は、意外にも、最初からこの事件に存在しなかったと考える外はありません。