一方、その様に「屋根裏の遊戯」を愛読していた六郎氏が、その奥附の作者の本名を発見し、それが嘗つて静子にそむかれた彼女の恋人であり、彼女に深い恨みを抱いているに相違ない平田一郎と同一人物ではないかと疑い始めたのは、さもあり相なことではありませんか。
そこで、彼は大江春泥に関する、あらゆる記事、ゴシップを猟り、遂に春泥が嘗つての静子の恋人と同一人物であったこと、又彼の日常生活が甚だしく厭人的であり、当時、已に筆を絶って行方をさえくらましていたことを、知悉するに至ったのでありましょう。
つまり、六郎氏は、一冊の「屋根裏の遊戯」によって、一方では彼の病癖のこよなき知己を、一方では彼にとっては憎むべき昔の恋の仇敵を、同時に発見したのです。