私はそれから前章に記した通り、この事件が大江春泥の傑作集の如きものであること、証拠の揃いすぎていたこと、偽筆が余りにも真に迫っていたことなどを、彼女の為に簡単に説明した。
「あなたは、よく知らないだろうが、春泥の生活と云うものが、実に変なんだ。
彼奴は、なぜ訪問者に逢わなかったか、なぜあんなにも度々転居したり、旅行をしたり、病気になったりして、訪問者を避けようとしたか、おしまいには、向島須崎町の家を、無駄な費用をかけて、なぜ借りっぱなしにして置いたか、いくら人厭いの小説家にもしろ、あんまり変じゃないか。