彼奴は、なぜ訪問者に逢わなかったか、なぜあんなにも度々転居したり、旅行をしたり、病気になったりして、訪問者を避けようとしたか、おしまいには、向島須崎町の家を、無駄な費用をかけて、なぜ借りっぱなしにして置いたか、いくら人厭いの小説家にもしろ、あんまり変じゃないか。
人殺しでもやる準備行為でなかったとしたら、あんまり変じゃないか」
私は静子の隣りにベッドに腰をおろして話していたのだが、彼女は、やっぱり春泥の仕業であったかと思うと、俄かに怖くなった様子で、ぴったりと私の方へ身体をすり寄せて、私の左の手首を、むず痒く握りしめるのであった。