でも最初は、土蔵の中が怪しいなどとハッキリ考えていた訳ではなく、疑惑に責められるまま、たった一人の時の夫の姿を垣間見て、出来るならば迷いを晴らしたい、どうかそこに私を安心させる様なものがあってくれます様にと祈りながら、一方ではその様な泥坊じみた行いが恐しく、といって一度思い立ったことを、今更中止するのは、どうにも心残りなままに、ある晩のこと、袷一枚ではもう肌寒い位で、この頃まで庭に鳴きしきっていました、秋の虫共も、いつか声をひそめ、それに丁度闇夜で、庭下駄で土蔵への道々、空をながめますと、星は綺麗でしたけれど、それが非常に遠く感じられ、不思議と物淋しい晩のことでありましたが、私はとうとう、土蔵へ忍びこんで、そこの二階にいる筈の夫の隙見を企てたのでございます。
もう母屋では、御両親をはじめ召使達も、とっくに床についておりました。
田舎町の広い屋敷のことでございますから、まだ十時頃というのに、しんと静まり返って、蔵まで参りますのに、真っ暗なしげみを通るのが、こわい様でございました。