いいえ、その様な遠いことを申さずとも、例えば、文楽の浄瑠璃人形にまつわる不思議な伝説、近代の名人安本亀八の生人形なぞを御承知でございましたなら、私がその時、ただ一個の人形を見て、あの様に驚いた心持を、十分御察し下さることが出来ると存じます。
私が長持の中で見つけました人形は後になって、門野のお父さまに、そっと御尋ねして知ったのでございますが、殿様から拝領の品とかで、安政の頃の名人形師立木と申す人の作と申すことでございます。
俗に京人形と呼ばれておりますけれど、実は浮世人形とやらいうものなそうで、身の丈三尺余り、十歳ばかりの小児の大きさで、手足も完全に出来、頭には昔風の島田を結い、昔染の大柄友染が着せてあるのでございます。