ところが、それにも拘らず、さて月給日が来て二十幾円かの袋を手にして、帰り途で買うのかと思っていると、そうではなくて、彼女の収入は、一度全部母親に手渡さなければならないらしく、そのまま例の四辻で、彼と別れたのだが、それから、今日は新しいショールをして来るか、明日は、かけて来るかと、格二郎にしても、我事の様に待っていたのだけれど、一向その様子がなく、やがて半月程にもなるのに、妙なことには、彼女はその後少しもショールのことを口にしなくなり、あきらめ果てたかの様に、例の流行おくれの品を肩にかけて、でも、しょっちゅう、つつましやかな笑顔を忘れないで、木馬館への通勤を怠らぬのであった。
その可憐な様子を見ると、格二郎は、彼自身の貧乏については、嘗つて抱いたこともない、ある憤りの如きものを感じぬ訳には行かなかった。
僅か七円何十銭のおあしが、そうかと云って、彼にもままにならぬことを思うと、一層むしゃくしゃしないではいられなかった。