懐中鏡のサックは、さっきも云った様に鹽瀬で作った二つ折のもので、その表面の麻の葉つなぎかなんかの模様の間に、すみ子の手すさびらしく、目立たぬ色糸で、英語の組合せ文字の刺繍がしてあったのですが、それがIの字をSで包んだ形に出来ているのです。
「私は今までどうしても、この組合せ文字の意味が分らなかったのです」田中が云うのですね「Sは成る程すみ子の頭字かも知れませんが、Iの方は、実家の田中にも養家の北川にも当てはまらないのですからね。
ところが、今ふっと気がつくと、あなたは栗原一造とおっしゃるではありませんか、イチゾウの頭字のIでなくてなんでしょう。