あの時あんなことを云ったのは、それでは私への謎であったのか、あの時こういう態度を示したのは、やっぱり心あってのことだったのかと、年甲斐もないと笑ってはいけません、次から次へ、甘い思出に耽るのでした。
それから、私達は殆ど終日、田中は姉の思出を、私は学生時代の昔話を、事実が遠い過去のことである丈に、少しも生々しい所はなく、又いや味でもなく、唯懐しく語り合いました。
そして、別れる時に、私は田中にねだって、その懐中鏡と、すみ子の写真とを貰い受け、大切に、内ぶところに抱きしめて、家へ帰ったことでした。