多分君も知っている通り、あの辺は、道の両側に毀れかかった高い石垣が聳え、その上に森の様な樹木が空を覆っていたり、飛んでもない所に草の生えた空地があったり、狭い道に苔の生えた板塀が続いていて、その根元には蓋のない泥溝が横わっていたりする、市内の住宅街では最も陰気な場所の一つだが、姉崎未亡人の邸は、その板塀の並んだ中にあって、塀越しに古風な土蔵の屋根が見えているのが目印だ。
姉崎家の門よりは電車道よりに、つまり姉崎家の少し手前の筋向うに当る所に、今云った草の生えた空地があって、その隅に下水用の大きなコンクリートの管が幾つもころがっているのだが、多分その管の中を住いにしているのだろう、一人の年とった男の片輪乞食が、管の前に躄車を据えて、折れた様に座っていた。
僕はそいつを注意しない訳には行かなかった。