姉崎未亡人は、夫の病死以来召使の人数も減らして、広い邸に中学二年生の一人息子と書生と女中の四人切りで住んでいた。
丁度その日は子供の中学生は二日続きの休日を利用して学友と旅行に出ていたし、書生は田舎に不幸があって帰郷していたし、その上女中は夫人の云いつけで、昼すぎから午後四時半頃まで遠方の化粧品店と呉服屋とへ使に出ていたので、その留守の間夫人は全く一人ぼっちであった。
いつもはそういう場合には市ヶ谷加賀町にある夫人の実家から人を寄こして貰う様にしていたのに、今日はそれにも及ばないということだったので、女中はそのまま使いに出て、つい半時間程前に帰宅して見ると、家の中は空っぽで、表の戸締りもなく、家中を隈なく探したけれど夫人の姿はどこにも見えなかった。