これらの傷口から、流れ出している血潮の河の方向が、傷口の小さ過ぎる事などよりは更らに一層奇怪な感じを与えるのだ。
と云う意味は、それらの血の流れの方向が全く滅茶苦茶であって、例えば右肩の傷口からのものは、左肩に向って横流し、左腕の傷口からのものは手首に向って下流し、左足からのものは反対に身体の上部に向って逆流し、又ある傷口からのものは斜めに流れていると云う調子で、中にも異様に感じられたのは、右臀部からの(これが一番大きい傷口なのだが)血の流れは横に流れ、腰を通って下腹部の左の端近くまで、つまり腰の部分を殆ど一周しているという有様であった。
如何に被害者が抵抗し、もがき廻ったにもせよ、こんな滅茶苦茶な血の流れ方があるものでなく、裁判医なども全く初めての経験だと驚いていた。