僕は今犯人が兇行の時の返り血を拭き取ったと書いたが、これ丈けは空想ではなかった。
と云うのは、先にもちょっと記した通り兇行現場の土蔵の二階には、死体から遠く離れた隅の方に、姉崎未亡人の不断着が脱ぎ捨ててあったが、それは袖畳みにしたのではなく、ごく乱暴に丸めたもので、僕が一目見てこいつは曽恵子さん自身が丸めたものではないなと考えた通り、検べて見ると、その縞銘仙の単衣ものの中には、クシャクシャになった夫人常用の絞羽二重の長襦袢が包みこんであって、それに血を拭き取った跡が夥しく附着していたからだ。
若しやそこに指紋が残されているのではないかと思われたが、注意深い犯人にそんな手抜かりはなかった。