君は多分知らないだろうが、二百三高地と云うのは、日露戦争の旅順攻撃の記念の様にして起った名称で、前髪に芯を入れて、額の上に大きくふくらました形の、俗に庇髪と云った古風な洋髪のことだ。
それから着衣の方は、無論単衣物に違いないのだが、「紫色の矢絣」の絹物で、帯は黒っぽいものであったと答えた。
矢絣というのも現代には縁遠い柄で、歌舞伎芝居の腰元の衣裳などを思出させる古風な代物だが、老年の片輪乞食は、この我々には寧ろ難解な語彙をちゃんと心得ていて、さも昔懐しげな様子で、歯のない唇を三日月型にニヤニヤさせながら、少女の様にあどけない声で答弁した。