来た人が帰って行くのを見逃がしていた程だから、この両人の外に、乞食の目に触れなかった訪問者がなかったとは云えないし、姉崎家への入口は正門ばかりには限らないことを考えると、殺人犯人がその黒服の男と矢絣の女のどちらかであったと極めてしまうのは無論早計だけれど、姉崎家は主人の死亡以来訪問者も余り多くなかったという事だから、その乏しい訪問者の内の二人が分ったのは、可成の収穫であったと云っていい。
それから捜査の人達は手分けをして、姉崎家の表門裏門への通路に当る小売商店などを、一軒一軒尋ね廻って、胡散な通行者がなかったかを調べたが、別段の手掛りも得られなかった。
ただその内の刑事の一人が、電車の停留所から姉崎家の表門への通路に当る一軒の煙草屋で、さい前の躄乞食の証言を裏書きする聞込みを掴んで来た外には。