それから捜査の人達は手分けをして、姉崎家の表門裏門への通路に当る小売商店などを、一軒一軒尋ね廻って、胡散な通行者がなかったかを調べたが、別段の手掛りも得られなかった。
ただその内の刑事の一人が、電車の停留所から姉崎家の表門への通路に当る一軒の煙草屋で、さい前の躄乞食の証言を裏書きする聞込みを掴んで来た外には。
その煙草屋のおかみさんが云うのには、黒い洋服を着た人は幾人も通ったので、どれがそうであったかは分らぬけれど、矢絣の女の方は、髪の形が余り突飛だったので、よく記憶しているが、二十二三に見える縁なし眼鏡をかけた濃化粧の異様な娘さんで、通りかかったのは二時少し過ぎであった。