この手紙は前便とは少し書き方を変えて、小説家の手法を真似て、ある一夜の出来事を、そのまま君の前に再現して見ようと思う。
そういう手法を採る理由は、その夜の登場人物が色々な意味で君に興味があると思うし、そこで取交わされた会話は、殆ど全く姉崎未亡人殺害事件に終始し、随って君に報告すべきあらゆる材料が、それらの会話の内に含まれていたので、その一夜の会合の写実によって、僕の説明的な報告を省くことが出来るからだ。
それともう一つは、説明的文章では伝えることの出来ない、諸人物の表情や言葉のあやを、そのまま再現して、君の判断の材料に供し度い意味もあるのだ。