熊浦氏はその人の後継者の様に云われ、同じ「妖怪」という渾名をつけられているが、昔の妖怪博士とは違って、博士の肩書など持たない私学出の民間学者で、妖怪と心理学とを結びつけるのではなくて、妖怪そのものに心酔している中世的神秘家なのだ。
熊浦氏は黒川博士とは同郷の幼馴染だと聞いているが、現在では地位も、境遇も、性格もひどく違っている。
黒川先生は前途の明るい官学の教授で、親から譲られた資産があって生活も豊かだし、人柄は女性的で如才のない社交家であるのに反して、熊浦氏はただジアナリスティックな虚名を持っている外には、地位もなく資産もなく、妻子さえない全くの孤独者で、僅かに著作の収入で生活しているのだ。