熊浦氏は黒川博士とは同郷の幼馴染だと聞いているが、現在では地位も、境遇も、性格もひどく違っている。
黒川先生は前途の明るい官学の教授で、親から譲られた資産があって生活も豊かだし、人柄は女性的で如才のない社交家であるのに反して、熊浦氏はただジアナリスティックな虚名を持っている外には、地位もなく資産もなく、妻子さえない全くの孤独者で、僅かに著作の収入で生活しているのだ。
性格も陰欝で厭人的で、広い荒屋に召使の老婆とたった二人で住んでいて、人を訪ねたり訪ねられたりすることも殆どない様な生活をしている。