先ず、僕自身は、先便にも書いた通り、姉崎家を訪問するまでは、午後からずっと、勤先の新聞社にいたのだし、槌野君は、朝から、二階借りをしている部屋に座りつづけて、一度も外出しなかったと云うし、園田文学士は大学の心理学実験室で、ある実験に没頭していたと云うし、熊浦氏もあの日は昼間一度も外出しなかった、それは婆やがよく知っている筈だとのことで、一応は皆アリバイが成立した。
その席に証人がいた訳ではないのだから、疑えばどの様にも疑えたけれど、兎も角も一同の気やすめにはなった。
「だが、ちょっと待って下さい」