上下三千の部屋からなっていたという、あのべら棒な規模には比肩すべくもないけれど、その設計の理智的な複雑さに於ては、寧ろジロ娯楽園の迷路に団扇を上げなければならぬであろう。
さて、この怪奇物語は、右の難解なる迷路の中で行われた、いとも不可思議なる殺人事件を発端とするのであるが、その殺人事件に話を進める前に、一応登場人物のお目見えをさせて置かねばなるまい。
時は初夏、青々と奥底知れず澄み渡った大空に、一沫の雲もなく、太陽は娯楽園の山々谷々、奇怪なる建築物の数々を、白と黒とのクッキリした陰影に染め為して、その全景を、立昇る陽炎と共に、鏡の青空へそのまま投影させているかに見えた。