ある晩のこと、日本橋区のある川沿いの淋しい区域にある、料理のうまいのと価の高いのとで有名なソロモンというレストランの食堂に、相川青年と、妹の珠子と、珠子の家庭教師の殿村京子との三人が、食卓を囲んでいた。
月に一度ずつ、珠子が兄を誘って、殿村京子をどこかへ案内して御馳走する慣わしになっていて、今夜はソロモン食堂が選ばれたのだ。
珠子はまだ女学生であったから、けばけばしい身なりを避けていたけれど、でも鶯色のドレスが美しい身体によく似合って、輝くばかりの美貌は人目を惹かないではいなかったし、兄の守も、同じ血筋の美青年で、金釦の制服姿も意気に見えたのに比べて、殿村京子だけは、服装も地味な銘仙か何かで、年輩も四十を越していたし、その上容貌は醜婦と云っても差支なかった。