型のくずれた黒ソフト帽、画家の様に長く伸した髪、青ざめた顔、ひどい近眼と見えて厚いレンズの二重眼鏡、ピンとはね上った口髭、三角型の顎髯、羊羹色の丈の短いインバネス、その下から二十年も昔流行した、荒い柄の、薄汚れた縞ズボン、破れ歪んだパテント・レザーの礼装靴が見えているという、怪奇映画の主人公みたいな人物だ。
その人物が、さい前から、R洋服店のショウ・ウインドウの大ガラスの前に、じっと立ち尽したまま、まるで案山子の様に身動きもしないのだ。
ドンヨリと薄曇の天候であったし、日の短い頃なので、附近の時計店の屋根の大時計は、まだ四時少し過ぎたばかりだけれど、道行く人の顔もおぼろに、火ともし前の、最も陰気なひと時であった。