実を云うと、自分の恋の打開け話を、書物にして衆人の目にさらすというのは、小説家でない私には、妙に恥しく、苦痛でさえあるのだが、どう考えて見ても、それを書かないでは、物語の筋道を失うので、初代との関係ばかりではなく、その外の同じ様な事実をも、甚しいのは、一人物との間に醸された同性恋愛的な事件までをも、恥を忍んで、私は暴露しなければなるまいかと思う。
際立った事件の方から云うと、この物語は二月ばかり間を置いて起った二人の人物の変死事件――殺人事件を発端とするので、この話が世の探偵小説、怪奇小説という様なものに類似していながら、その実甚だしく風変りであることは、全体としての事件が、まだ本筋に入らぬ内に、主人公(或は副主人公)である私の恋人木崎初代が殺されてしまい、もう一人は、私の尊敬する素人探偵で、私が初代変死事件の解決を依頼した深山木幸吉が、早くも殺されてしまうのである。
しかも私の語ろうとする怪異談は、この二人物の変死事件を単に発端とするばかりで、本筋は、もっともっと驚嘆すべく、戦慄すべき大規模な邪悪、未だ嘗て何人も想像しなかった罪業に関する、私の経験談なのである。