私は実業学校の四年生であった頃、家の都合もあったのだが、寧ろ大部分は私の幼い好奇心から、同じ東京に家庭を持ちながら、私は神田の初音館という下宿屋に泊っていたことがあって、諸戸とはそこの同宿人として知合ったのが最初であった。
年齢は六つも違って、その時私は十七歳、諸戸は二十三歳であったが、彼の方から誘うままに、何しろ彼は大学生で而も秀才として聞えていた程だから、私は寧ろ尊敬に近い気持ちで、喜んで彼とつき合っていた訳である。
私が彼の心持を知ったのは、初対面から二ヶ月ばかりたった頃であったが、それは直接彼からではなく、諸戸の友人達の間の噂話からであった。