これだけの事実によって判断すると、この事件は、何者かが、多分夜盗の類であったに相違ないが、初代の居間に忍び込んで、予め目星をつけ置いた月給入の手提袋を盗み去ろうとした時、初代が目を覚まして声を立てるか何かしたので、うろたえた賊が所持の短刀で初代を刺し、そのまま手提袋を持って逃亡した。
という風に想像することが出来た。
母親がその騒ぎに気附かなんだのは少々変であるが、前にも述べた通り初代の寝間と母親の寝間とが離れていたこと、母親は耳が遠い上にその夜は殊に疲れて熟睡していたことなど考えると、無理もないことであった。