深山木は無造作に云って、私を促すので、私は中に這入って、見知り越しの留守居の人々に、ソッと私達の来意を告げ、深山木を紹介して置いて、外に待合せていた諸戸と一緒に、遠方へ行く訳にも行かぬので、近くのみすぼらしいカフェへ這入った。
諸戸としては、私の顔を見れば彼の異様な求婚運動について、何とか弁解しなければならぬ立場であっただろうし、私の方では、そんな馬鹿なことがと打消しながらも、心の奥の奥では、諸戸に対して、ある恐ろしい疑念を抱いていて、それとなく彼の気持を探って見たい、と云う程ハッキリしていなくても、何かしらこの好機会に彼を逃がしてはならぬという様な心持があって、それに深山木が私に行くことを勧めた調子も、何だか意味ありげに思われたので、お互の不思議な関係にも拘らず、私達はつい、そんなカフェなどへ這入ったものであろう。
私達はそこで何を話したか、今ではひどく気拙ずかったという感じの外は、ハッキリ覚えていないのだが、恐らく殆ど話らしい話をしなかったのではないかと思われる。