私は二晩続けて諸戸の家を訪れたのであったが、第一の晩は諸戸が不在の為、空しく玄関から引返す外はなかったけれど、第二の晩には私は意外の収穫を得たのである。
もう七月の中旬に入っていて、変にむし暑い夜であった。
当時の池袋は今の様に賑かではなく、師範学校の裏に出ると、もう人家もまばらになり、細い田舎道を歩くのに骨が折れる程、まっ暗であったが、私は、その一方は脊の高い生垣、一方は広っぱといった様な、淋しい所を、闇の中に僅かにほの白く浮き上っている道路を、目を据えて見つめながら、遠くの方にポッツリ、ポッツリと見えて居る燈火をたよりに、心元なく歩いていた。