当時の池袋は今の様に賑かではなく、師範学校の裏に出ると、もう人家もまばらになり、細い田舎道を歩くのに骨が折れる程、まっ暗であったが、私は、その一方は脊の高い生垣、一方は広っぱといった様な、淋しい所を、闇の中に僅かにほの白く浮き上っている道路を、目を据えて見つめながら、遠くの方にポッツリ、ポッツリと見えて居る燈火をたよりに、心元なく歩いていた。
まだ暮たばかりであったが、人通りは殆どなく、たまさかすれ違う人があったりすると、却って、何かもののけの様で、不気味な感じがした程であった。
先に記した通り、諸戸の邸は仲々遠く、駅から半里もあったが、私は丁度その中程までたどりついた頃、行手に当って、不思議な形のものが歩いているのを気附いた。