それには、諸戸が、帝国大学の卒業生ではあったけれど、官途にもつかず、開業もせず、奇怪千万な研究に没頭していたからでもあろうし、又、私はといえば、恋に狂った文学青年みたいな男だったものだから、警察では、私達を、一種の妄想狂――復讐や犯罪探偵に夢中になった変り者――という風に解釈したらしく、邪推かも知れぬけれど、諸戸のかの条理整然たる推理をも、妄想狂の幻として、真面目には聞いてくれなかった様に思われた。
(十歳やそこいらの子供の、チョコレートに引かされての自白などは、警察ではまるで問題にしなかった)つまり、警察は警察自身の解釈によって、この事件の犯人を探したらしいのだが、併し、結局これという容疑者さえもあがらず、そのままに一日一日と日がたって行くのであった。
曲馬団からは、損害賠償という様な意味で、多額の香奠をまき上げられるし、警察からはひどく叱られた上に、探偵狂扱いにされるし、諸戸はこの事件にかかり合ったばっかりに、散々な目に会わされたのであるが、併し、彼はその為に元気を失う様なことはなく、却って一層熱心を増したかに見えた。