曲馬団からは、損害賠償という様な意味で、多額の香奠をまき上げられるし、警察からはひどく叱られた上に、探偵狂扱いにされるし、諸戸はこの事件にかかり合ったばっかりに、散々な目に会わされたのであるが、併し、彼はその為に元気を失う様なことはなく、却って一層熱心を増したかに見えた。
のみならず警察が幻想的な諸戸の説を信じなかったと同じ程度に、諸戸の方でもかかる事件に対しては余りにも実際的過ぎる警察の人々を度外視しているらしく思われた。
その証拠には、私はその後、深山木幸吉の受取った脅迫状に記されてあった「品物」の事、それを深山木が私に送るといったこと、送って来たのは意外にも一箇の鼻かけの乃木将軍であったことなどを、諸戸に打開けたのだが、諸戸は取調べの時それについて一言も陳述せず、私にも云ってはならぬと注意を与えた程である。