それはこの老漁夫ではなくて、知合いの別の漁師の実見談なのだが、ある日、目のギョロギョロしたみすぼらしい風体の男が、飄然とK港に現われて、丁度今の私達の様に、岩屋島へ渡った。
その時頼まれたのがその漁師であった。
四五日たって、同じ漁師が夜網の帰りがけ、夜のしらじら明けに、偶然岩屋島の洞穴の前を通りかかると、丁度引汐時で、朝凪ぎの小波が、穴の入口に寄せては返す度毎に、中から海草やごもくなどが、少しずつ流れ出していたが、それに混って、何だか大きな白いものが動いているので鮫の死骸かと見直すと、驚いたことには、それが人間の溺死体であることが分った。