ふと、私はいうにいわれぬ恐怖を感じました。
もし浴場にあの様に多量の血潮が流れていず、或は流れていても、それが絵の具だとか他の動物の血液だとかであったならば、河野の風変りな性質と考え合せて、彼のいたずらだとも想像出来るのでしょうが、不幸にして血痕は明かに人間の血液に相違ないことが判明し、その分量も、拭き取った痕跡から推して、被害者の生命を奪うに十分なものだということが分っているのですから、その時浴場にいたのが河野に間違いないとすると、彼こそ恐るべき犯罪者なのであります。
でも、河野は何ゆえに長吉を殺したのでしょう。