一時出入を禁じられていた問題の浴場は、客商売にさわるからという湖畔亭の主人の歎願が容れられて、丁度その日から湯が立つことになったのですが、〆治を帰してから、しばらく物思いに耽っていた私は、もう九時頃でもあったでしょうか、久しぶりでその浴場へ入って見る気になりました。
脱衣場の板の間の血痕は、綺麗に削りとられていましたが、その削り跡の白々と木肌の現れた様は、かえって妙に気味悪く、先夜の血なまぐさい出来事を、まざまざと思い起させるのでした。
客といっても、多くは殺人騒ぎにきもをつぶして、宿を立ってしまい、あとに残っているのは、河野と私の外に三人連の男客だけです。